エリコ新聞

小林エリコのブログです。

「この地獄を生きるのだ」が発売された

「この地獄を生きるのだ」が12月7日に発売されました。

 文学フリマで一足お先に本を手にとってみたものの、まだあまり自分の本が出たことを実感できず、発売日の仕事帰りに本屋さんを回ってきました。

 そうしたら、きちんと平積みされていて、胸がドキドキした。棚差しなんじゃなかろうかと思っていたので、嬉しかった。

 吉祥寺のブックスルーエさんではサイン本を作ってきました。1月から選書フェアをやるので、その話をした。そして、その時に出すフリーペーパーにのせるエッセイを店員の花本さんはたくさん褒めてくれた。

 思えば、最近、たくさん人に褒められるようになった。

 子供の頃はいつも怒られてばかりで、教師が机のそばで私が泣くまで叱っていたこともある。私は思ったことや感じたことを素直に口に出すので、そういったところが大人は気に入らなかったのだろう。怒られるたんびに私は口を閉ざすようになり、自分の気持ちや欲求を胸の奥に押し込めるようになった。

 子供の頃の私は大人から褒められたのは絵だけだった。たいしてうまくない絵に固執していたのは、これだけが大人に認められたからというだけだった。たくさん褒められたかったから絵をもっとうまくなりたいと思って美大を目指そうとしたけれど、両親に反対されて私は涙ながらに諦めた。絵でしか賞状をもらっていない私はそれにしがみつくしかなかった。私の唯一の成功体験。手放したら暗闇に落ちる気がしていた。

 私は誰かに必要とされていない。私を愛し、私を必要とする人は世界にいない。周りの人が誰かと一緒にいるのを、幸せで良かったと思う一方で惨めだと思うときがある。一人で眠るとき、アパートの薄い壁の向こうで男女の笑い声がする。そういう時に喉をかきむしりたくなるし、この世から消えてしまいたくなる。

 本を作っているときは、編集さんが文章を褒めてくれる。もちろん、褒め言葉ばかりではないけれど、「ここは良いですね!」と書いておいてくれる。彼にとっては仕事なのだけれども、私はどれだけ救われただろう。学校で褒められたこともなく、他者から良い評価をもらえたこともない。編集さんが褒めてくれると「もっと頑張ろう」と思い、私は今までのフィールドと全く違ったところで存在を確認できると知った。

 もっと、もっと研ぎ澄まされた文章が書きたい。読んだ人の視界が開けるようなものを。

「この地獄を生きるのだ」はまだ発売されたばかりでどうなるかわかりませんが、ベストセラーになってほしいと願っています。