エリコ新聞

小林エリコのブログです。

精神障害者が受ける差別

8年くらい前、自宅に市役所の福祉部地域共生課から手紙が届いた。開けてみると、個別避難計画書の作成にご協力くださいというお知らせだった。

東日本大震災を経験し、令和3年に国は避難行動要支援者に対して、個別避難計画書を作ることを努力義務にしている。

避難行動要支援者とは、障害者、高齢者、外国人、妊産婦等のことを言う。それで、精神障害者の私にも手紙が来たのだろう。確かに、震災時、服用している薬がなくなったらどうなるのか、他の人よりもストレス耐性がないので、不穏な状態になったら、どうしたらいいのかという懸念があった。こうやって手紙が来たのだから、私も協力した方が良いだろうと思い、記載してある番号に電話をした。

「すみません、個別避難計画書についてのお手紙をいただいたので、お電話したのですが。障害者なんですけど」

「どのような障害をお持ちですか?」

精神障害です」

「……あー、それならやめといた方がいいです。個別避難計画書は作ったら警察に提供するんですよ。近所の人に精神障害者だってバレたら良くないでしょう」

「え、いや、でも、震災の時、不安なので」

「どこに精神障害者が住んでるか周りに分かってしまうんですよ」

「……はい、わかりました。やめておきます」

昔のやりとりなので、正確さはやや欠けるが、おおよそこんな感じだった。市役所から手紙が来たから、連絡をしたのに、差別的な言葉をバンバンぶつけられて、私は酷く落ち込んだ。個別避難計画書を作らないでいいと思っているんだったら、精神障害者には手紙を送らないで欲しい。福祉も共生社会もクソだ。

私はこの出来事を誰にもいうことなく、8年間、ただ抱えてきた。「震災」「防災」「避難」といったワードが出てくると、心が塞ぎ込み、当時のことがフラッシュバックする。私はあの時「死んでもいい」と市役所の職員に言われたのだ。障害者福祉という言葉を目にすると、全ての障害者が包括されているように思われるが、その中には精神障害者は入っていない。それを日々実感する。

 

自分で調べたのだが、精神障害者障害者手帳の交付も非常に遅かった。

 

昭和24年身体障害者福祉法が制定される。制定時から身体障害者手帳の交付が位置付けられる。

知的障害者に対する福祉行政は、昭和22年の児童福祉法の制定から始まる。昭和48年9月、厚生次官通知により、療育手帳制度要綱が定められ、療育手帳制度が創設された。

昭和25年、精神衛生法が成立した。平成7年精神障害者保健福祉手帳の制度が創設。

身体障害者手帳療育手帳には交通費の半額免除があるが、精神障害者保健福祉手帳にはない。(一部自治体ではバスが半額の制度はある。国内線の航空機も半額)

 

あと、なぜかパラリンピックには精神障害者は含まれていない。私は優劣を競うスポーツ全般が嫌いなので、オリンピック自体どうでも良いが、なぜ、精神障害だけ除外しているのかは気になる。

さらに精神障害者には雇用差別もある。

厚生労働省ホームページより

私は無職の時、障害者雇用で働きたいと希望していたのだが、この表を知っていたら、障害を隠して就労することを選んだと思う。この国の障害者福祉はほぼ身体障害者が中心で、その後が知的障害、最後が精神障害と言える。

精神障害がこんなにも嫌われる理由は、凶悪事件が起きた時の報道によるものが大きい。精神科への通院歴がわかると一斉に報道され「責任能力の有無」が取り上げられる。しかし、池田小の児童連続殺傷事件や相模原での障害者施設で起きた殺傷事件でも、犯人は責任能力ありとなって有罪となっている。仮に、責任能力なしとなったからといって、無罪放免になり街中で暮らすことはあり得ない。事件の後は強制入院になる。

精神障害者への差別は昔からあったが、一番世間を騒がせたのはライシャワー事件だろう。幻聴に支配された青年が、アメリカ大使のライシャワー氏の太ももを刺してしまったことがニュースになり、当時の大手新聞では「異常者の犯罪をどう防ぐ」「野放しの神障害者」などと報道された。もちろん青年が起こした事件は悲しいものだが、実際、もっと問題だったのは、ライシャワー氏が入院した際、輸血を受けたのだが、日本は売血に頼っていたので、それが原因で肝炎になってしまった。この後、日本の売血は禁止され、献血一本になる。今、私たちが安全な血液を使うことができ、お金がなくなっても売血に頼らないでいられるのがこの事件に端を発していることは知って欲しい。

しかし、この事件の後、日本は精神科病院を大量に作り、収容型の入院が一般的になる。そうすると人手が足りなくなるので、精神科特例という法律を作り、精神科の病床では医師は1/3、看護師は 2/3の人員配置で良いとされた。こうして、精神科の手薄な看護は日本中に広まり、退院できるのに、できない患者が増えていく。精神疾患は病気であり、私たちは治療を受ける権利があり、病気を抱えながらも地域で生活していくべきなのに、国が排除の姿勢を取っているのでは、どうしようもない。

 

危険だと思われている精神障害者だが、実際の犯罪率は極めて低い。

令和5年度犯罪白書より

 年間の精神障害者の犯罪検挙数は全検挙数の約0.8%。精神障害者の数が全人口の約5%であることから、精神障害者の犯罪率はむしろ一般より低いといえる。しかもこの統計は、精神障害者に加えて、警察が「精神障害の疑いがある」と判断した数も含めているので、実際にはもっと少ないかもしれない。