少年ジャンプ+に掲載された藤本タツキの「ルックバック」という漫画が話題だ。
私も読んだけれど、とても素晴らしい作品だと感動してTwitterでシェアした。
しかし、読んだ時、一瞬「ウッ!」となる表現があったのだが「漫画の大筋の方は良いから」という理由でその箇所をスルーした。
しかし、今思うとそれは良くないと感じて、ブログに書くことにした。
それは作品中に描かれている通り魔殺人の犯人のことである。漫画の中でははっきりと「統合失調症」と書いていないが、「絵画から自分を罵倒する声が聞こえた」という新聞の見出しが描かれていて、聞こえない声が聞こえるのは「幻聴」であり「統合失調症」の症状である。
精神疾患の患者が映画や小説、漫画などに登場する時がどんな時かというと「常人には理解できない殺人犯。異常者」という役回りがほとんどである。弱いものを助けたり、ヒーローになる精神疾患の患者は出てこない。
もちろん、現実に精神疾患の患者が凶悪犯罪を起こしているという意見もあると思うが、きちんとデータが取られており、精神疾患の患者と正常な人が起こす犯罪の数は、正常な人の方が多いのである。
「犯罪白書によると、年間の精神障害者の犯罪検挙数は全検挙数の約0.6%であるとされています。精神障害者の数が全人口の約2%であることからすると、精神障害者の犯罪率はむしろ一般より低いといえます。しかもこの統計は、精神障害者に加えて、警察が「精神障害の疑いがある」と判断した数も含めていますから、実際にはもっと少ないかもしれません。
精神障害者の犯罪は殺人・放火などでは高率であるといわれますが、その被害者は近親者が多く、他の犯罪と同列にその社会的危険性を論ずることはできません。」
(下のリンクからコピペしました)
ではなぜ、漫画の中で統合失調症の患者が凶悪犯罪を起こしている描写が描かれているのだろうか。それは、単純に作者が正しい知識を持っていないこと、精神疾患に関する何らかの差別意識があるのだろう。
それに、この作品のキーポイントは「少女が事故で死んでしまう」ことだが、これが交通事故だと作品として弱い。交通事故は使い古された手法である。そこで考えたのが、精神疾患の患者による凶悪犯罪、京アニの放火事件を彷彿とさせるような、なんの理由もなく突然殺されてしまうという方が読者の印象に残ると考えたからだろう。
しかし、世の中の差別や思い込みは、時代とともに変化していく。
最近、ネットフィリックスで「風と共に去りぬ」の配信が中止になった。差別的な表現が現代にそぐわないのが理由である。
私は今回の問題はこの事件と似ている気がしている。今の時代ではジャンプに掲載され、単行本も出され、賞賛する人が多いけれど、時間が経ち、社会の認識が変わったら、「ルックバック」自体、社会から抹消されるのではないだろうか。
現時点で、精神疾患を持っている人たちからSNSで非難の声が上がっているので、問題になっていることは間違いない。もっと言ってしまえば、統合失調症は百人に一人がかかる病気であり、決して珍しい病気ではないこと。精神疾患は国が指定する五代疾病になっていることから、精神疾患を特別視する時代はもう終わっていると私は考えている。
作品は読者がついてこなければ読まれない。作者も時代の変化に合わせてアップデートが必要である。