エリコ新聞

小林エリコのブログです。

精神病新聞の昔と今とこれから

先日の文学フリマで隣にいた武蔵野ヘルスセンターのあらみさんに「もう精神病新聞かなまら祭りのルポとかああいうのはやらないんですか?」と聞かれた。

私は「かなまら祭りのルポなんて、私よりももっと面白く書ける人がいるし、せっかく精神病なのに書いても意味が無い」と言った。あらみさんは「えりこさんが書くかなまら祭りのルポを読みたいと思ってる人もいると思うけどな」と言っていた。

もともと精神病新聞は軽い気持ちで始めたものだった。友達がフリーペーパーを作ってたから「暇だし私もやってみようかな」と思って始めた。「精神病新聞」 とちょっとビックリするタイトルをつけたが、私のうりは「精神病」しかなく、精神病の界隈でずっと生きてきたので特にたいした意味はなかった。

最初の頃の精神病新聞は「及川光博のコンサートで現実逃避」とか「精神病院入院記」とか特にまとまりはないが、面白おかしい文章を書いていた。皮肉ったり 自虐的だったり。100部ほど刷って中野のタコシェに毎月置いていた。月刊で書いていたのだが置きに行くたびに自分の書いたフリーペーパーが持っていった 時より少なくなっていて嬉しかった。

その後、友達がミニコミ自費出版の本)を作っているのに触発され私も「精神病の本」というミニコミを100部ほど作った。精神病院に入院したときの話 や、精神病院で知り合って絶縁した人とのファックスの公開など独特のものだった。しかし、初めてのミニコミ作りで右も左もわからずWordでプリントアウ トしたものを漫画の原稿用紙に貼って下手くそなイラストを添付したお粗末なものだった。

友達にミニコミを置いてくれそうなお店を教えてもらってお店に電話したら「とりあえず持ってきてください」と言われたので3店舗回る予定だったのだが、自 分の中で勝手に「一つのお店で30部づつくらい置いてくれるだろう」と思い、90冊くらいを腕がちぎれそうになりながら持っていった。

結果は散々で一つのお店には「うちには置けない」と断られ、もう一つのお店は「じゃあ、とりあえず10部」となり、タコシェは「フリーペーパー置いてくれてるから」という理由で15部置いてくれた。

私はもの凄く焦った。大量の在庫を抱えてお金も万単位で出して作ったのにどうしよう・・・となってしまった。売れる見込みが無いと思ったので、次の日にデイケアに持って行って知らない人にまで配りまくった。もちろん無料で。

そうしたら、その日の夜にタコシェから電話があり、「一日で8冊売れました。追加をお願いします」と言われた。その後誰かに聞いた話だがミニコミは月に 10冊売れればヒットらしい。そりゃあ、無名の人の本をお金を出して買うなんてよっぽどだ。その後何回か追加で持って行き、全部なくなった。在庫を抱えて 怖い思いをしてこりごりだったから、もうミニコミを作る気は全くなかった。フリーペーパーだけ続けていた。

その後、クイックジャパンという雑誌の取材を受けた。まともな取材は初めてだった。とてもきちんとまとめて紹介してくれてとても嬉しかった。そうしたら、 クイックジャパン効果でタコシェに「精神病の本」がないかというという問い合わせが随分来て、タコシェの店員さんに「問い合わせがきているので増刷してく ださい」と何回か言われたのだが(今思うと異例)「もうミニコミは作る気無いので」と言って何回も断った。在庫を抱えるのが嫌だったからだ。

でも、その後月イチで出してるフリーペーパーをせっかくだからまとめて本にしようと思って「精神病新聞全部」を出した。表紙を見てもらうとわかるがもの凄 くやる気のないミニコミだ。正直言って私がお客さんだったら手にも取らないと思う。しかし、クイックジャパン効果で一月で300冊売れた。それでやる気が 出てミニコミもフリーペーパーも続けよう、という気になった。

ただ内容が病気のことを取り扱って面白おかしく書く内容でそういう内容がウケるのかなと思ってふざけた内容のものばかり書いていた。終いには精神病と全然 関係ないものになっていった。「精神病」というセンセーショナルな名前が乗っかっただけのただのふざけたミニコミになってしまった。

一応それなりに売れていたのだがなんとなく疑問を持ち始めた。「精神病」って付ける意味がどこにあるのか、読者はなんでこれを買うのか、せっかく私は精神 障害ということで普通の人には体験できないことをたくさんしているのにそれが一つも伝えられていないのではないか。

契機になったのは前回の大量服薬だ。本当に苦しく辛い思いをして、周りの信頼を一気に無くした。月並みな表現だけど、心も体もボロボロだった。

しかし、私以外にも多量服薬や精神障害で苦しんでいる人はたくさんいる。そういう人たちの何かの支えになったらという思いと自分の人生の精算の思いを込めて、ミニコミの「和解」を作った。

多量服薬して、内科から退院したあと何故か精神病院に入院しなかったので実家の古いパソコンで体の痛みや不快感、頭の中の混乱を押さえつつ書いた。

多量服薬して病院に運ばれて苦しむ中での医者や看護婦や家族とのやり取り、その後の回復の過程。表紙も凄く良く出来て全てに意味があり、本当に命がけで書 いた一冊だ。これは300円で販売してるのだけれども、正直1万円でもいいんじゃないかと思う。多量服薬をした本人の苦しみのさまが克明に書かれていてな おかつ回復に向かうさまが書かれている。私だったら一万円だしても買う。多量服薬をしたことがない人にとっても興味がある人はあるだろうし、精神障害者と 関わる人っだったらもの凄く読みたいと思う。

しかし、「和解」みたいに命を削って書くのはもうこりごりなので、私が今までに体験した精神障害というものをみんなに伝えていきたいと思う。精神障害を抱える人に少しでも益になるものを書いていこうと思う。

私が体験したかなまら祭りより、私が体験した精神病の世界を伝えていきたい。

でもやっぱり、多くの人はかなまら祭りとかそういうのが読みたいだろうと思うけど、私は少数の人向けに精神障害について伝えていきたい。

だから、精神病新聞はますます売れなくなり、一部の人にしか相手にされなくなるとおもう。でも、その一部の人達になにか残ったらいいと思う。

(ちなみに今現在2013年4月は全く書いておりません。書く気力がなくなりました)