エリコ新聞

小林エリコのブログです。

戦争と愛と死、こうの史代の「夕凪の街」

こうの史代、という漫画家を知ったのはいつだろう。本屋さんでこの本が平積みで置いてあってなんとなく手に取った。家に帰って読んで、泣いた。そして、何度もなんども読んだ。

原爆が落とされて日本は敗戦国になった。

「ぜんたい

この街の人は

不自然だ

誰も

あのことを

言わない

いまだに

わけがわからないのだ」

戦後の広島の空気をみごとに表現したセリフだ。

戦争は終わった。終わっても、人は生き続ける。

主人公は女性だ。普通に働いている。普通に男性を好きになる。

戦争がなければ、原爆が落とされなければ、愛する男性と結ばれたであろう。しかし、「被爆者」という現実はあまりに重い。そして、被爆体験は人の心を破壊する。

この話は終わらない。何度夕凪が吹いても終わらない。

いや、夕凪でなく、これから荒れ狂う風が吹くのかもしれない。

私たちが「普通」に生活し、人を愛することができるのはいつまでなのだろうか。