エリコ新聞

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「おジャ魔女どれみ」20周年に寄せて

おジャ魔女どれみが20周年記念を迎え、今、YouTubeでアニメが放送されている。この機会にたくさんの人に見てもらいたいので、この作品について語らせて欲しい。

 

私が子供だった時、スタジオぴえろの魔女っ子アニメが流行していた。クリーミーマミ、ミンキーモモ魔法の妖精ペルシャ。中でもいちばんのお気に入りはミンキーモモで日曜の朝はテレビに釘付けだった。魔法の国から修行にきたモモは魔法のステッキで色々な職業の人に変身して事件を解決する。

 

テーマソングはこんな歌詞だった。

 

「大人になったら、何になる? 大人になったら、何になる?」

 

ミンキーモモは何にでもなれた。私はその姿を見て、自分は何にでもなれると想像した。親から買ってもらったミンキーモモステッキを右手に持ち6畳の畳の間でくるくると回し、赤いリボンが回転する様を眺めながら洋々たる未来を夢見ていた。

 

それから20年近く経って、私は引きこもりになっていた。夢だった絵の大学へはいけず、文系の短大を卒業して、編集の仕事についたものの、月給は12万。残業代、社保なし。重労働と貧困で精神がおかしくなり、自殺未遂をして入院した後、実家に強制送還された。

 

毎日何をすればいいか分からず、ただ通院して服薬をし、暗澹たる日々を送っていた。その時、ふと、日曜日の朝に放送されているアニメが気になりテレビをつけた。そこに流れてきたのは激しいギターと共に元気いっぱいに飛び回るカラフルな衣装を着た魔女たちだった。それが「おジャ魔女どれみ」である。

 

大人になった私の前に現れた新たな魔法使いたちは、大きな使命も、守るべき国も持っていなかった。主人公のどれみは、好きな男の子に告白する勇気がない。魔女の本を一生懸命読んで、ラブレター片手に魔法の呪文を唱える。しかし、魔女ではないどれみは告白ができない。

 

「ああ、魔法が使えたらいいのに」

 

ため息をつくどれみの姿を見ながら、私は幼い日のことを思い出していた。子供の頃、毎日が楽しいことばかりでなく、苦しいことの方が多かったこと。できないこと、我慢しなければならないことがたくさんあったこと。

 

おジャ魔女どれみ」に登場する子供たちは、皆それぞれ悩みを抱えていた。家がお金持ちで映画監督のパパとインテリアコーディネーターのママがいるはづきちゃんは、自分が好きな服を着たいと親に言えなくて悩んでいたし、あいこちゃんの両親は離婚していて、働き詰めの父親のために家事を手伝い、たくさん我慢をしていた。

 

私は彼女たちの姿を見ると、涙がポロポロとこぼれてくるのだ。小さな町で生き、隣の席に座るクラスメイトを気遣い、親に自分が愛されているかを確認する姿は等身大の子供だ。

 

おジャ魔女どれみの特筆すべき点は、クラスメイト全員が主人公というところだ。もちろん、主人公はどれみだが、クラスメイトの誰かに焦点を当てて、1話を割いてくれる。

毎朝、誰も来ないうちに教室に来て花瓶の水を替えている子、しょっちゅう嘘をついて嫌われている子、学校にずっと来ていない子。

私がおジャ魔女どれみを見て、涙を流すのは、わかってくれる大人がいてくれたということだ。子供の時、いじめられて学校にも家にも居場所がない自分のことを知っている大人はどこにもいないと考えていた。でも、そうじゃなかった。この作品に携わっている人たちは私のような行き場のない子供がこの世界に存在していることをちゃんと知っているのだ。

 

おジャ魔女どれみの中でどの話がいちばん好きかと言われたら「春風家にピアノが来た日」だ。

主人公のどれみの母親はピアニストで、自分の夢を娘に託していた。しかし、母親のレッスンは厳しく、幼いどれみは涙を堪えて鍵盤を叩く。そんな状態のため、結局、ピアノの発表会の時に大失敗してしまう。暗い表情の娘を見て、どれみの母は、自分が娘に酷いことをしてしまったと後悔し、大切なピアノを売り払う。その後の春風家にピアノはずっとないままだったのだが、妹のぽっぷが生まれ、彼女が「ピアノを習いたい」と言いだす。母はどれみのことを考えて、家にピアノを置くのをやめようとするが、どれみは「いいよ、ピアノ置こうよ」と笑顔で言う。しかし、ピアノを買うお金がないため、四苦八苦するのだが、最終的に春風家にピアノが再びやってきた。どれみの母は、どれみを気遣って二階に置こうとするが、どれみが元々ピアノのあった一階の部屋を指差す。そこは、どれみの母親とどれみが辛い思いをしながらピアノの練習をしていた場所だ。

 

どれみは笑顔で言う。

 

「うちのピアノはここじゃなくちゃね」

 

母と娘の和解を30分でこれほど見事に見せてくれた作品を私は他に知らない。

 

どん底だった20代、私は日曜日の朝のためだけに生きていた。死にたくなっても、おジャ魔女どれみの次の回を見てからにしようと、一週間、死ぬのを先延ばしした。

 

私の命を救ってくれたアニメがこうしてインターネットでたくさんの人に目に触れるのは喜びでしかない。

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