エリコ新聞

小林エリコのブログです。

腫瘍を取った

昨年、腰にしこりがあるのに気がついた。直径二センチくらいで押すとコリコリと異物感がある。ネットで検索すると、良性ならいいが、悪性だとガンだとあるのだが、私の家系にはがん患者がいないので、大丈夫だろうとたかを括っていた。しかし、タケの方が心配しており、安心するために一度、皮膚科でみてもらうことにした。ちょうど、コロナ禍が始まったばかりの頃で、病院は混雑しており、医者は明らかにピリピリしていた。私の腰をそっと触っただけで「何にもありません」と言われて終わった。普通なら「もっとちゃんと診ろ!」などと、怒るところだが、気の弱い私は、病院に来てしまったことが悪いことのように思えてしまった。そして、なんの処置もされず、薬ももらわずに千円近く払い帰宅した。

 

腰のしこりを放置して一年近く経った時、市役所からがん検診のお知らせが来た。子宮がんの検診のため、指定された病院に行くと、いやに高圧的な男の医師がなんやかや言い始め、はいはいと頷いていたら、いつの間にか貧血の検査や子宮がん以外の検査もされてしまって三千円近く請求された。流石にびっくりして、受付で「市のがん検診って、こんなにかからないですよね?」と恐る恐る尋ねてみたら、会計の女性は請求書を引っ込めた。払わなくて済んだことに安堵しながら、とんでもない病院があることを知り、その婦人科のGoogleの口コミを見たところ、ひどいコメントが並んでいた。「暴言をたくさん言われて泣きながら帰ってきました」「待合室にいたら、院長の怒鳴り声が聞こえてきた」などとともに、星の数は1だった。

帰宅してから、ふとスマホで昨年行った皮膚科を調べてみたら、クチコミの星の数は1で、患者たちの不満が大量に書き込まれていた。私は即座に、周囲の皮膚科を調べ、星の数が多く、医者への感謝のクチコミが溢れている病院を探し、そこの予約を取った。

 

評価の良い病院は混んでいたが、親切丁寧にみてくれて「脂肪の腫瘍だと思うけれどここでは詳しくわからないので、外科の設備がある病院を紹介します」と言って紹介状を書いてくれた。

紹介された整形外科に行き、触診を受けた後、CTスキャンを勧められた。結構な検査なので、思わず値段を聞いた。「五千円から一万円くらい」と言われて悩んでいると「一万円もかからないですよ!」と、そばにいた看護師からフォローを入れられた。私は自分というものが大事でなく、人間の命や健康より、お金が優先される社会なので、どうしても自分を疎かにしがちだが、今はタケと一緒に暮らしているし、まあ、そこまで金銭的に追い詰められているわけでもないしな……と、考え検査を受けることにした。

一週間後に予約を取り、CTスキャンを受けた。でっかい白い蒲鉾のような機械の中に入り、耳にはヘッドフォンをつけられた。閉所恐怖症の人には辛そうな検査だが、こちらは閉鎖病棟で身体拘束を受けたことがあるので、たいして怖くない。検査中、ガリガリと大きい音がして、その音を遮るためのヘッドフォンだったと気がついたのだが、綺麗な環境音楽のボリュームが小さすぎてほぼなんの役にも立っていなかった。

 

一週間後、検査結果を聞きに行く。「ただの脂肪ですね。気にしないで生活してください」と言われるのを期待していたのだが「ここのところ、血液が溜まっているんですよ。わかります?最近、ぶつけたりしましたか?」と質問された。「ぶつけて、内出血ならしばらくしたら、血液は吸収されてなくなりますが、そうじゃない可能性もあるので、もう一度検査しましょう」と言われた。ちなみにCTスキャンは一回7千円ちょっとの金額で、自分のパートの日給よりも高いので気が滅入る。少し時間を置いて、三ヶ月後に撮り直しと言われ、8月の末にもう一度検査をしたのだが、血液は消えていなかった。

「良性か悪性かは開いてみないとわからないですね。まあ、経過をみるでもいいと思いますけど」

医者は他人事のせいか、どちらがいいかとは積極的に言わない。

「良性だったら、このままでもいいんですよね」

医者の「開く」という言葉は手術なんだろうなと感じ取り、それはなるべく避けたいので、誘導尋問を試みる。

「良性でしたらね。でも、開けるまではどちらかは分からないです」

「手術って、結構大変ですよね。外科の手術初めてでして……」

「そんなことないですよ!1,2時間だし、料金も1,2万です。簡単な手術でサッと終わります。腫瘍を切って取って皮膚を縫います。その後、検査に出せば結果がわかります」

良性の可能性があるけど、悪性の可能性もある。それだったら、早めにはっきりさせようと自分に喝を入れ、手術をすることにした。

「じゃあ、来週のこの時間で」

と、サッと決められて、大した説明もなく帰された。私の心の中は「切って取って縫うの怖い」それだけだった。

 

手術当日、病院に着いたらすぐに手術室に通される。ベッドの上にうつ伏せになり、腰の部分をアルコール除菌して、すぐに麻酔が打たれた。部分麻酔なのだけれど、ずいぶんたくさん打っているのが分かる。そして、打った後すぐに切り始めた。切るなら一言言ってからにして欲しい。部分麻酔なので、私の頭や意識ははっきりしているし、感覚が全くないわけでもないので、患部を押したり引いたり引っ張ったりしているのが分かるのが絶妙に怖い。「痛くないですか?」と医者が何回も聞いてくる。私は自傷行為をしていた人間なので、多少痛いのは我慢できるけれど、ここで我慢すると大変なことになりそうなので、痛い時は素直に「痛いです」と答えた。「じゃあ、麻酔打ちまーす」と医者が追加の麻酔を打つ。そんなに簡単に麻酔って打っていいんだ、とびっくりしつつ、打たれると皮膚の感覚が鈍くなるのがわかる。自分自身はそこまで痛みを感じないけれど、今まさに、自分の腰を切り開いて肉塊を取り出していると思うと気分が悪くなってきてしまい、必死に自分が大好きなキャラクターの「うーたん」を思い出して耐えた。

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医者の「痛くないですかー?」は頻繁に発せられ、痛いと言うと、追加の麻酔が来る。まるで、居酒屋でホッピーのナカを注文しているかのような気分だ。

「ちょっと麻酔切れたから、もう一本!」

「あいよ!」

みたいな感じ。

今まで、手術をする側は疲れるけど、受ける側は寝ているだけだから疲れないと思っていたけれど、それは違うというのが今回わかった。体が熱を持ち、だるくなり、不快感が酷く、寝ているだけでもしんどい。自分の腰のあたりで器具がガチャガチャと音をたて、医者と看護師の会話が聞こえると、怖くなる。しかし「後、二針です」という声が聞こえた時はホッとした。処置が終わると、腰のところにはんぺんのようなでっかい絆創膏を貼られた。手術室を出るとき「ちゃんと取れましたよ!これ、検査に出しますからね!」と看護師さんが私の腰から今まさに取り出した腫瘍を見せてくれた。容器に入っていたが、三センチくらいはある豚肉のような塊で、人肉だと思うと、気持ちが悪くなってしまった。

抜糸は来週とのこと。それまでシャワーしか浴びてはダメなので、サウナに行けないのはとても辛い。検査結果がいつになるのか教えてもらってないのだけれど、良性であるのを祈るばかりだ。